退屈な毎日が変わった カルチャーセンターで見つけた年の差の友情
人生にぽっかり空いた穴を埋めたかった
子供たちがそれぞれ独立し、夫はまだ仕事を続けておりますので、自宅で一人で過ごす時間が増えました。最初は解放感もありましたが、しばらくすると、なんだか時間がたっぷりありすぎて、何をしたら良いのか分からなくなってしまったのです。テレビを見ていても、家事をしても、心から楽しいと思えることが少なくなり、漠然とした退屈さを感じるようになっていました。
何か新しいことを始めて、生活に張りを持たせたい。そう思い立ち、近所のカルチャーセンターのパンフレットを手に取りました。若い頃から字を書くのが好きだったことを思い出し、「絵手紙教室」の項目に目が留まりました。絵を描くのは苦手ですが、字と絵を組み合わせるなら私にもできるかもしれない。そう考えて、少しばかりの期待と、新しい環境への不安を抱えながら、教室の申し込みをしたのです。
絵手紙教室での思いがけない出会い
初めて教室のドアを開けた時、少し緊張しました。生徒さんの顔ぶれを見渡すと、私と同年代くらいの方が多いように見えましたが、一角に若い女性が一人いらっしゃるのが目に入りました。おそらく30代くらいでしょうか。場違いなところに来てしまったかしら、と一瞬尻込みしましたが、先生の明るい声に迎えられ、指定された席に着きました。
その若い女性は、私の斜め前の席でした。真剣な表情で筆を動かしていましたが、どうも上手くいかない様子で、小さなため息をついていました。同じ題材に向き合う者として、なんだか放っておけず、「あら、難しいですよね。私もなかなか思うように描けなくて」と、話しかけてみました。
彼女は顔を上げて、はにかむように微笑み、「そうなんです、先生みたいに描くの、本当に難しいですね。でも楽しいです」と答えてくれました。それが、彼女、仮に佐野さんとしましょうか、との最初の会話でした。
年齢差を超えて育まれた友情
絵手紙教室は週に一度でしたが、会うたびに佐野さんと少しずつ言葉を交わすようになりました。最初は絵手紙のこと、道具のことなど、共通の話題から始まりました。お互いに「この筆は使いやすい」「この紙はにじみやすい」など、小さな情報交換をするうちに、自然と距離が縮まっていったのです。
佐野さんは、私が若い頃に経験した子育ての話や、仕事で大変だった頃の話、そして今の体のちょっとした不調の話などを、嫌な顔一つせず、真剣に聞いてくれました。「へぇ、そうなんですね」「お母さんって大変だったんですね」と、相槌を打ちながら話を聞いてくれる佐野さんに、私はいつの間にか、子供たちにも話さないような本音を話せるようになっていました。
一方、私は佐野さんから、今の若い世代がどのように働いているか、どんなことに興味を持っているか、そして彼女が抱える仕事や将来への悩みなどを聞きました。私たちの若い頃とは全く違う働き方、価値観に驚くこともありましたが、「そういう考え方もあるのね」と、新鮮な発見の連続でした。
年の差があるからこそ、お互いの人生経験が全く違い、それがかえって興味深く、話していて飽きないのだと感じました。お互いの知らない世界を教えてもらうことが、とても楽しかったのです。
助け合い、そして広がった世界
ある時、私がスマートフォンの操作で困っていると、佐野さんがさっと手を差し伸べてくれました。「これはこうするんですよ」「このアプリ、便利ですよ」と、丁寧に教えてくれたのです。私にとっては難解だったスマホが、佐野さんのおかげで少しずつ身近なものになりました。今では、絵手紙の作品を写真に撮って、佐野さんとメッセージアプリで見せ合うこともあります。
また別の日には、佐野さんが「人間関係で悩んでいて、どうしたらいいか…」と少し落ち込んだ様子で話してくれました。私のこれまでの人生で経験してきた、様々な人間関係の悩みを乗り越えてきた話や、気持ちの切り替え方などを話しました。もちろん、今の時代の人間関係と私の時代では状況が違うかもしれませんが、少しでも佐野さんの気持ちが軽くなれば良いと思いました。後日、「お話し聞いてもらえて、すごく気持ちが楽になりました」と言ってもらえた時は、本当に嬉しかったです。
教室のない日も、佐野さんからメッセージが届くようになりました。おすすめのお店情報や、面白いテレビ番組の話など、日常の些細なことですが、それが私の毎日に彩りを加えてくれました。今では、教室の後にお茶をしたり、一緒に美術館や雑貨屋さんに出かけたりすることもあります。
年の差友情がくれた新しい輝き
佐野さんとの出会いは、私の退屈だった毎日に、新しい光を当ててくれました。カルチャーセンターに通うことが楽しみになり、佐野さんと話すことで心が弾み、教えてもらった新しい情報に触れることで視野が広がりました。
年齢を重ねると、新しい人間関係を作るのは難しいのではないか、若い人とは話が合わないのではないか、という不安を抱えがちです。私もそうでした。しかし、共通の「好き」や「学び」を通して出会い、お互いの違いを認め合い、尊敬し合うことで、年齢は友情を育む上での障壁にはならないのだと、佐野さんが教えてくれました。
年の差の友人との交流は、人生をより豊かにしてくれます。私自身の経験や知識が誰かの役に立つこともあれば、若い世代から新しい価値観や情報を受け取ることで、自分の世界が大きく広がります。
もし、あなたが今、新しい出会いや交流に一歩踏み出せずにいるなら、ほんの小さなきっかけから始めてみてはいかがでしょうか。地域の集まりでも、習い事でも、ボランティア活動でも、あるいはSNSでも良いかもしれません。年齢を気にせず、心を開いて話してみることで、きっと素敵な年の差の友情が見つかるはずです。そして、その出会いが、あなたの毎日を驚くほど輝かせてくれるかもしれません。