ぽっかり空いた時間に彩りを 年の差友人がくれた新しい居場所
子供が独立してできた時間と、感じていた小さな寂しさ
子供たちが次々と独立し、賑やかだった我が家が少しずつ静かになっていくにつれて、私の日常にはぽっかりと時間ができると同時に、言葉にならない小さな寂しさが訪れるようになりました。これまで子供たちのために費やしていた時間やエネルギーが、宙ぶらりんになったような感覚です。何か新しいことを始めたい気持ちはありましたが、一歩踏み出す勇気が出ないまま、漠然とした日々を過ごしていました。
そんな私に変化が訪れたのは、地域の広報誌でカルチャーセンターの「はじめての絵画教室」の募集を目にしたのがきっかけでした。絵を描くことに特別な興味があったわけではありませんでしたが、「何か新しいことを」という気持ちに背中を押され、思い切って申し込んでみました。
絵画教室で出会った、年齢を気にしない友人
絵画教室に通い始めて驚いたのは、生徒さんの年齢層の幅広さでした。私と同じくらいの年代の方もいらっしゃいましたが、20代や30代と思しき若い方も何人か見受けられました。最初は年齢が離れている方にどう接して良いか分からず、少し戸惑いを感じていたのが正直なところです。
しかし、同じキャンバスに向かい、筆を動かすうちに、自然と会話が生まれていきました。「この色、どうやって作りますか?」「先生のお手本、素敵ですね」といった、絵に関する他愛もないやり取りから始まり、少しずつお互いのことを話すようになっていきました。
その中で特に親しくなったのが、私より30歳近く若い、マリさんという女性でした。彼女は仕事帰りに教室に通っているとのこと。最初は敬語で話していましたが、マリさんが朗らかに話しかけてくれるうちに、いつの間にか自然な会話ができるようになっていきました。
年齢差があるからこそ見えた、お互いの世界
マリさんと親しくなるにつれて、私たちの間の年齢差が良い刺激になっていることに気づきました。マリさんは今の若い世代の働き方、趣味、興味のあることなどを楽しそうに話してくれます。私が知らなかったスマホの便利な使い方や、流行りのカフェの情報などを教えてくれることもありました。
一方、私はマリさんから、子育てのことや、人生の先輩としての経験について尋ねられることがありました。「子育てで大変な時、どうやって乗り越えましたか?」「仕事で悩んでいるのですが、〇〇さんの若い頃はどうでしたか?」といった、真剣な質問を受けることもありました。私のこれまでの人生経験が、少しでも誰かの役に立てるかもしれないと感じられたことは、私にとって大きな喜びでした。
特に印象的だったのは、絵画教室の後に近くのカフェに立ち寄り、お互いの描いた絵を見せ合いながら話した時のことです。同じ風景を描いていても、マリさんの絵は色彩が鮮やかで、私が気づかなかった視点から描かれていることに驚きました。彼女の絵に対する自由な発想に触れて、私の絵の世界も広がったように感じました。
日常に新しい彩り、新しい居場所
マリさんとの交流は、絵画教室の時間だけにとどまりませんでした。LINEで絵の進捗状況を報告し合ったり、絵とは関係ない日常の出来事を話したりするようになりました。絵画教室のない日でも、マリさんからのメッセージを受け取ったり、こちらから送ったりすることが、私の日常に新しい彩りを与えてくれました。
年齢が離れているからこそ、遠慮なく話せることもあるのだと感じています。例えば、家族には話しにくいちょっとした悩みや、友人には重く受け止められそうなことも、マリさんには客観的な意見として聞いてもらえる安心感がありました。私も、若い彼女が抱える仕事や人間関係の悩みを聞きながら、自分の経験を思い返したり、改めて気づかされることがたくさんありました。
絵画教室という共通の趣味を通じて出会い、年齢差を超えて育まれた友情は、子供が独立して少し寂しくなっていた私の心に、温かい光を灯してくれました。絵画教室という場所が、私にとって絵を描く楽しみだけでなく、年齢を気にせずに心を開ける新しい居場所になったのです。
一歩踏み出すことで広がる世界
この体験を通して、年齢を理由に新しい人間関係や活動を諦める必要はないのだと強く感じています。最初は戸惑いがあったとしても、共通の興味や関心があれば、年齢差はむしろお互いの世界を広げるスパイスになります。
もし今、新しいコミュニティへの参加や、若い世代との交流にためらいを感じている方がいらっしゃいましたら、私の体験談が、少しでも背中を押すきっかけになれば幸いです。何か小さなことでも、興味のある活動に一歩踏み出してみることで、思いがけない素晴らしい出会いや、心安らぐ新しい居場所が見つかるかもしれません。年齢を気にしない、心と心が通じ合う友情は、私たちの人生をより豊かに彩ってくれることでしょう。