仕事に悩む若い友人に、私が語った『遠回り』の話 年の差友情で見つけた私の新しい役割
人生経験は誰かの光になるかもしれない
若い方とどう関わっていいか分からない、自分のこれまでの経験が、果たして今の若い世代に通用するのだろうか、そんな風に思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。私自身も、子供たちが独立して時間ができ、新しい人間関係に目を向け始めた時、若い方との交流に対して漠然とした不安を感じていました。
「もうこの歳では、話題も合わないだろう」「何を話せば喜ばれるのだろう」
そんな風に尻込みしていた私でしたが、ひょんなことから年の離れた友人との交流が始まり、そして、その友人とのある出来事を通じて、年齢を重ねた自分だからこそできることがあるのかもしれない、という新しい気づきを得ることができました。今回は、仕事に悩む若い友人に、私の人生の『遠回り』の話をした体験を通じて見つけた、年の差友情の一つの形についてお話ししたいと思います。
習い事で出会った、年の離れた友人
彼女、恵さん(仮名)とは、数年前に始めた地域の陶芸教室で知り合いました。私は定年退職後、何か新しいことに挑戦したいと思い、以前から興味のあった陶芸を始めたのです。恵さんは私よりも30歳近く年下で、教室の中では一番若い方でした。
最初は、ただ同じ教室に通う仲間として挨拶を交わす程度でした。作業の手順を教え合ったり、作品について感想を言い合ったりするうちに、少しずつ言葉を交わす機会が増えていきました。年齢差はありましたが、陶芸という共通の趣味があったおかげで、話題に困ることはありませんでした。彼女は私の人生経験に興味を持ってくれたり、私は彼女の新しい感性に刺激を受けたりと、お互いの違いを面白がれる関係になっていきました。
恵さんの「どうしたらいいか分からない」
ある日の教室の後、珍しく恵さんが浮かない顔をしていました。いつもは明るい彼女の様子に、少し心配になりました。「何かあったの?」と声をかけると、彼女は少し迷った後、仕事の悩みを打ち明けてくれました。
彼女は新卒で入った会社で、自分のキャリアパスについて悩んでいました。努力しているのに成果が出せない部署にいること、上司とのコミュニケーションがうまくいかないこと、そして、このままここで働き続けて良いのかという漠然とした不安。話を聞いていると、彼女の表情はどんどん暗くなっていきました。
私はすぐに「こうすればいいよ」とは言えませんでした。なぜなら、彼女の悩みは、私が若い頃に経験したことのある種類の悩みであり、それが簡単に解決できるものではないことを知っていたからです。ただ、私は静かに耳を傾けました。彼女が言葉を選びながら、一つずつ気持ちを話せるように、相槌を打ちながら、時間をかけて聞きました。
私が語った、人生の『遠回り』の話
恵さんの話を聞き終えて、ふと私の心に浮かんだのは、私自身の社会人時代の経験でした。私も若い頃、今の恵さんのように、一生懸命やっているのにどうしてもうまくいかない時期がありました。希望の部署に行けず、自分の適性に自信が持てなくなり、毎日が灰色に見えていました。
その時、私は無理に進み続けることをやめ、一度立ち止まって、全く別の分野の勉強を始めました。それは、すぐに仕事に直結するものではありませんでしたが、純粋に知的好奇心からくる行動でした。周りからは「遠回りだ」「キャリアを捨てるのか」と言われることもありました。しかし、その『遠回り』だと思っていた時期に得た知識や人脈が、数年後、私が新しい部署で活躍する上で、想像もしていなかった形で役立ったのです。そして、その遠回りがあったからこそ、本当に自分がやりたいこと、自分に向いていることを見つけることができたと、今振り返ると思います。
私は恵さんに、この私の『遠回り』の話をしました。「恵さんの今の状況、私にもそういう時期があったのですよ」と、自分の失敗談や、悩んでもがいていた当時の気持ちを正直に話しました。そして、「その時はつらかったけれど、決して無駄な時間ではなかった。むしろ、あの時の遠回りがあったから今の私があると思っている」と伝えました。
偉そうなアドバイスではなく、ただ「こういう経験をした人間もいる」という、私の個人的な物語として話しました。
「無駄じゃないんですね」恵さんの言葉と私の気づき
私の話を聞き終えた恵さんは、しばらく黙っていましたが、やがて顔を上げて「遠回りって、無駄じゃないんですね…」とつぶやきました。彼女の顔に少し光が差したように見えました。すぐに悩みが解決するわけではないでしょう。それでも、自分だけが立ち止まっているわけではない、寄り道も人生の一部になり得る、ということを感じてくれたのかもしれません。
この出来事を通じて、私は大きな気づきを得ました。若い頃の悩みや失敗、そしてそれを乗り越えてきた経験は、年齢を重ねたからこそ持つことのできる、かけがえのない財産なのだということです。そして、その財産は、同じように悩んでいる若い誰かにとって、道しるべや、少なくとも「一人じゃないんだ」と感じてもらえるための、ささやかな光になり得るのではないか、と。
年齢を重ねた自分にできること
恵さんとの交流は、私の日々に新しい意味を与えてくれました。若い友人たちの話に耳を傾け、彼らが迷ったり悩んだりしている時に、私のこれまでの人生経験の中から、何か一つでも参考になるような話ができたら、それはとても素敵なことだと思うようになりました。もちろん、世代が違えば価値観も違いますし、安易なアドバイスはかえって負担になることもあります。ただ、大切なのは、真摯に耳を傾けること、そして、自分の経験を押し付けるのではなく、「こんな人もいたんだな」程度に聞いてもらえるような、語りすぎない語り口を心がけることだと感じています。
年の差があるからこそ、お互いに見えている景色が全く違います。その違いを認め合い、尊重しながら関わることで、新しい発見や学びが生まれます。そして、年齢を重ねた私たちが持つ経験は、若い世代にとって、教科書には載っていない、生きた知恵となり得る可能性があるのです。
もし今、新しい人間関係に踏み出せない、若い世代との関わり方が分からないと感じている方がいらっしゃいましたら、ぜひ勇気を出してみてください。あなたの人生経験は、あなたが思っている以上に価値のあるものです。そして、誰かの人生の岐路に、そっと寄り添う力を持っているかもしれません。年の差を越えた友情は、あなたの世界を広げ、日々に彩りを与えてくれる、素晴らしい宝物になるはずです。