「もう歳だから」と諦めていた私に、若い友人がくれた新しい趣味との出会い
新しい一歩を踏み出せずにいた日々
子供たちが皆独立し、夫も定年を迎えて家にいる時間が増えた頃、私の日常は以前にも増して静かになりました。地域でのボランティア活動や、以前から続けている軽い運動はしていましたが、どこか心にぽっかりと穴が開いたような、物足りなさを感じていたのです。
何か新しいことを始めてみたい、そう思う気持ちはありました。しかし同時に、「もうこの歳から新しいことを覚えるなんて、無理なのではないか」「ついていけなかったらどうしよう」といった不安や、「若い方ばかりの場所には馴染めないだろう」という遠慮が先に立ち、なかなか一歩を踏み出せずにいました。「もう歳だから仕方がない」と、心の中で諦めの言葉を繰り返していたのです。
皆様の中にも、何か新しいことを始めてみたいけれど、なかなか一歩が踏み出せない、と感じていらっしゃる方はいませんか。そんな時、私の背中を押してくれたのは、年齢が随分と離れた友人でした。
年の差の友人がくれた、思いがけないきっかけ
その友人、仮にAさんとしましょう。Aさんとは、私が参加している地域の写真サークルで知り合いました。私は主に風景写真を撮っていましたが、Aさんはスマートフォン一つで何気ない日常の一コマや、カフェで見つけたおしゃれなスイーツなどを撮るのが得意な方でした。
最初はお互いに年齢が離れていることもあり、挨拶を交わす程度でしたが、写真を見せ合ううちに、お互いの視点の違いが面白いと感じるようになりました。私は構図や光の使い方といった技術的な面に目が行きがちでしたが、Aさんの写真はもっと自由で、被写体への愛情が感じられる温かいものだったのです。
ある日、Aさんが楽しそうに話してくれたのが、「カリグラフィー」というペンで美しい文字を書くアートのことでした。SNSで偶然見つけて、独学で始めたとのことでした。Aさんが書いた文字を見せてもらうと、それがとても素敵で、見ているだけで心が和むような美しさでした。
「これ、とても素敵ね」と私が言うと、Aさんは「楽しいですよ!〇〇さんもやってみませんか?」と、全く気負うことなく私を誘ってくれたのです。
「私にできるかしら?」という不安
正直なところ、最初は「私にできるかしら?」という思いが強くありました。若い頃から字を書くことは得意ではありませんでしたし、細かい作業は苦手な方です。それに、道具を揃えたり、書き方を覚えたりと、新しいことを始めるのはエネルギーがいることのように感じられました。「やっぱり、もう歳だから、新しいことを始めるのは難しいわ」と、いつもの諦め癖が出そうになりました。
しかし、Aさんは私のそんな迷いを見透かしたかのように、にこやかに言ってくれたのです。「大丈夫ですよ。私も始めたばかりですし、難しいことはないんです。それに、〇〇さんの丁寧な文字なら、きっと素敵に書けますよ。道具も最初はお貸しできますから、まずは気軽に試してみませんか?」
その「大丈夫ですよ」という屈託のない言葉と、「一緒にやりましょう」という温かい誘いに、私の心は少しずつ動かされました。年齢差を全く感じさせない、ただ「一緒に楽しいことを分かち合いたい」というAさんの純粋な気持ちが伝わってきたのです。
新しい趣味がくれた、日々の彩り
Aさんに勧められるまま、簡単なペンとインクを借りてカリグラフィーを試してみることにしました。最初は線の引き方一つにも苦労しましたが、Aさんが隣で優しく教えてくれたり、上手く書けた時には「わあ、素敵!」と褒めてくれたりするので、恥ずかしさや諦めたい気持ちよりも、「もっと上手に書きたい」という意欲が湧いてきました。
カリグラフィーは、集中して文字を書く無心になれる時間が心地よく、また、少しずつ上達していくのが目に見えてわかるのも楽しいものでした。手紙の宛名やメッセージカードに美しい文字を添えると、受け取った方にも喜ばれ、それがさらに励みになりました。
Aさんとは、カリグラフィーの話をするだけでなく、練習中にお互いの近況を話したり、時には一緒にカフェに行って、書いたものを見せ合ったりするようになりました。若いAさんの柔軟な考え方や、流行りのものに対する知識は、私の視野を広げてくれます。一方で、Aさんも私のこれまでの人生経験から得た話に耳を傾けてくれることがあり、「年の差があるからこそ、お互いに学べることがあるのね」と感じています。
新しい趣味を通じて、私は新しい世界と新しい友人を得ることができました。「もう歳だから」と家に閉じこもりがちだった私に、年の差の友人がくれたのは、新しい楽しみだけでなく、外に出て人との交流を楽しむ勇気だったように思います。
年齢を気にしない、新しい挑戦の可能性
もしあの時、Aさんの誘いに応じていなかったら、私の日常は今も物足りなさを感じたままだったかもしれません。年齢を理由に諦めてしまっていたら、カリグラフィーという素敵な趣味と、それをきっかけに深まったAさんとの友情という宝物に出会えませんでした。
年の差があるからこそ、遠慮してしまうこともあるかもしれません。ですが、相手が年齢を気にせず心を開いてくれるのであれば、私たちもその気持ちに応えてみることで、思いもよらない素晴らしい出会いや経験が待っていることがあるのだと感じています。
新しいことを始めるのに、遅すぎるということはありません。皆様も、もし何か心惹かれることや、話していて楽しいと感じる年の差の方がいらっしゃいましたら、年齢の壁を気にせず、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。きっと、あなたの日常に新しい彩りが加わることと思います。