スマホ苦手な私と、料理苦手な彼女 年の差友人とのお互い様関係
スマホの画面を見つめてため息…新しい一歩への戸惑い
子供たちが独立し、夫婦二人の生活にも慣れてきた頃、私の手元にはスマートフォンがありました。便利だとは聞くものの、小さな画面の操作は難しく、フリック入力も思うようにいきません。調べたいことや連絡を取りたいと思っても、ついつい億劫になり、結局は家族に頼んでしまう毎日でした。「このままでは、新しい世界に取り残されてしまうのではないか」そんな漠然とした不安を感じていました。
若い世代の人たちが、いとも簡単にスマホを使いこなしているのを見るたび、「私には無理だ」と諦めそうになることもありました。新しいコミュニティに参加したい気持ちはあるものの、そこで若い方々とどのように関われば良いのか、話題についていけるのか、といった不安が先に立ち、なかなか一歩を踏み出せずにいたのです。
そんな私が、年齢を気にせず心を通わせられる大切な友人と出会えたのは、本当に偶然の、そして素敵なお互い様のおかげでした。
地域ボランティアで見つけた、年の差の灯り
私たちの出会いは、地域の高齢者施設で行われている読み聞かせボランティアでした。私は昔から本が好きで、少しでも誰かの役に立てればと思い参加を決めました。そこに、彼女、恵美さん(仮名)がいました。恵美さんは私より30歳ほど年下で、地域の活性化に関心があり、この活動に参加しているとのことでした。
最初のうちは、正直なところ、どのように話しかけたら良いか戸惑いました。年齢が離れていることもあり、話が合うだろうか、迷惑ではないだろうかと考えてしまったのです。しかし、恵美さんはいつもにこやかで、読み聞かせの準備を手伝う私のぎこちない動きにも、自然な笑顔でサポートしてくれました。活動の後、片付けをしながら少しずつ言葉を交わすようになりました。天気の話、今日の読み聞かせの感想、お互いの趣味の話など、当たり障りのない会話でしたが、その穏やかな雰囲気は私にとって心地よいものでした。
ある日、活動で使う資料をスマホで確認している恵美さんに、私は思い切って尋ねてみました。「あの、そのスマホの操作、いつもすごいわね。私、どうしても苦手で…」と。すると恵美さんは、「あ、そうなんですね!もしよかったら、私でわかることならいつでも聞いてください」と、全く嫌な顔一つせず言ってくれたのです。その優しい言葉に、私の心はパッと明るくなりました。
スマホの「困った」を解決、そして生まれた感謝
その日から、ボランティアの活動の合間に、恵美さんが私のスマホの先生になってくれました。LINEの使い方、写真の送り方、インターネットでの情報検索の仕方…。どれも私にとっては壁のように感じていたことばかりです。
最初の頃は、何度聞いても同じところで戸惑ったり、思わぬ画面に進んでしまったりして、自分でも情けなくなることがありました。「もう一度教えてもらえる?」とお願いするたびに、「もちろんです、大丈夫ですよ」と、根気強く、私のペースに合わせて教えてくれました。まるで孫に教えてもらっているような、温かい時間でした。
特に印象に残っているのは、旅行先の写真を子供たちに送りたいと思った時のことです。何枚もある写真を選ぶ方法、まとめて送る方法が分からず困っていた私に、恵美さんは「このボタンを押して、送りたい写真をこうやって選ぶと良いんですよ」と、隣で一つ一つ丁寧に教えてくれました。無事に写真を送ることができたとき、子供たちからすぐに「ありがとう、素敵な写真だね!」と返信が来て、私は心から感動しました。一人ではできなかったことが、恵美さんのおかげでできたのです。この時、恵美さんへの感謝の気持ちが込み上げると同時に、「私も何か彼女にしてあげられることはないだろうか」と強く思うようになりました。
私の「得意」が、若い友人の役に立つ喜び
私が恵美さんに感謝の気持ちを伝えると、彼女は「いえいえ、お役に立てて嬉しいです」と謙遜していましたが、私は何かお礼がしたいという気持ちを抑えられませんでした。
ある時、恵美さんが「最近、自炊を始めたんですけど、なかなかレパートリーが増えなくて困っているんです」と話しているのを聞きました。私は長年主婦として家族の食事を作ってきましたから、料理には少し自信があります。これはチャンスだと思い、「もしよかったら、簡単な家庭料理ならいくつか教えることができるわよ」と提案してみました。
恵美さんは「え、本当ですか!ぜひお願いします!」と、目を輝かせて喜んでくれました。後日、私の自宅で一緒に料理をすることになりました。作ったのは、昔から我が家でよく作る肉じゃがと、季節の野菜を使った和え物です。私は、野菜の切り方や味付けのコツ、短時間で美味しく作る工夫などを伝えました。恵美さんは熱心に耳を傾け、丁寧にメモを取りながら、楽しそうに料理をしてくれました。
「うわあ、美味しい!こんな風に作ればいいんですね!」と、自分が作った料理を試食して感激している恵美さんの笑顔を見たとき、私はスマホの使い方を教えてもらった時と同じくらい、温かい気持ちになりました。私の経験や知識が、若い世代の役に立つ。これほど嬉しいことはありませんでした。
お互い様だからこそ、心地よい関係
恵美さんとの間には、「スマホを教えてもらう」「料理を教える」という、お互いの得意なことを提供し合う関係が生まれました。年齢や世代が違うからこそ、お互いに持っている知識や経験が異なり、それが相手にとって価値あるものになるのだと気づきました。
最初は年齢差を意識していましたが、お互いの「困った」を自然に助け合い、「得意」を惜しみなく分かち合ううちに、それは全く気にならなくなりました。困った時に頼れる、そして自分も誰かの役に立てる。そんな「お互い様」の関係性は、私たちに心地よい安心感を与えてくれました。
新しい関係に踏み出す勇気と、世代を超えた豊かな交流
今回の経験を通じて、私は年齢を理由に新しい人間関係を諦める必要はないのだと実感しました。若い世代の方々との関わり方が分からずためらっていた気持ちは、具体的な「助け合い」を通して自然と解消されていきました。
もし、あなたが新しい交流を求めているなら、あるいは若い世代との関わりに少し不安を感じているなら、まずは小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。共通の趣味や、地域での活動など、関心のある場所に参加してみることから始めてみても良いかもしれません。そして、もし何か困っていることがあれば、素直に助けを求めてみる。あるいは、あなたが誰かの役に立てることがあれば、惜しまず提供してみる。
世代が違えば、持っている知識や経験も違います。その違いこそが、お互いを豊かにする宝物になることがあります。年齢を気にせず、あなたの「得意」を誰かのために使い、誰かの「得意」に助けられる。「お互い様」の温かい関係は、あなたのセカンドライフに彩りを与えてくれるはずです。