お花見弁当を囲んで 年の差友人と語り合った過去と未来
桜の下でふと、込み上げる思い
春になり、近所の公園の桜が咲き始めました。毎年この時期になると、かつて家族と賑やかにお花見をした頃を思い出します。子供たちが独立してからは、一人で静かに桜を眺めることが多くなりました。それはそれで穏やかな時間なのですが、どこか物足りなさを感じるのも事実です。
そんなある日、スマートフォンのメッセージアプリに通知が届きました。相手は、私が地域のボランティア活動を通じて知り合った、20代の友人、Aさんからでした。
「〇〇公園の桜、見頃みたいですよ。もしよかったら、一緒にお弁当持って見に行きませんか?」
Aさんとは、活動中に何度か一緒に作業をするうちに、自然と話すようになったのです。最初は、一回り以上も年下のAさんにどう接して良いか戸惑いもありました。言葉遣いは丁寧にしつつも、お互いに壁を感じているような気もしていたのです。でも、Aさんはいつも穏やかで、私の話にも熱心に耳を傾けてくれました。そして、若い世代ならではの率直な物の見方を教えてくれることもありました。
お花見の誘いは、思いがけないものでしたが、私はすぐに「ぜひ」と返信しました。久しぶりに誰かと一緒にお花見ができることが、素直に嬉しかったのです。
世代を超えて囲む、手作りのお弁当
お花見当日、私たちは公園の入り口で待ち合わせをしました。どちらがお弁当を用意するか事前に相談し、私が卵焼きや煮物といった定番の和食を、Aさんが彩り豊かなサンドイッチやフルーツを担当することにしたのです。
桜並木の下にレジャーシートを広げ、持ち寄ったお弁当を並べました。私の作った少し地味なおかずと、Aさんの華やかなサンドイッチ。それだけでもう、お互いの「普通」が違うのだなと感じて、なんだか可笑しくなりました。
「わあ、美味しそうですね!この卵焼き、おばあちゃんの味を思い出します」とAさんが笑顔で言いました。
「ふふ、家庭の味でしょう? Aさんのサンドイッチも、見た目がとっても綺麗ね。若い人の感性は素敵だわ」
そう言いながら、一緒にお弁当をいただきました。桜の花びらが風に舞い、時折お弁当の上にひらひらと落ちてきます。その様子を眺めながら、とりとめのない話をしました。
桜の下で語り合った、昔と今と、そして未来
食事をしながら、自然と会話は深まっていきました。私が子供の頃や若い頃のお花見の話をすると、Aさんは目を輝かせながら聞いてくれました。
「昔は大人数で場所取りをして、宴会みたいだったのよ。歌を歌ったり、踊ったり。今みたいに静かに桜を愛でるというよりは、賑やかなお祭り騒ぎだったかな」
「へえ、そうなんですね!今の感覚とは全然違いますね。でも、想像するだけで楽しそうです」
Aさんは、私たちが育った時代の社会の様子や、価値観の変化について興味津々のようでした。私も、Aさんが今、仕事や将来についてどのようなことに悩み、どのような希望を持っているのかを聞きました。私が若い頃に抱えていた不安や夢とは、また違った難しさや可能性が今の若い世代にはあるのだと感じました。
Aさんが「将来が漠然としていて、何から始めればいいか分からないんです」と話してくれた時、私はかつて自分が同じように感じていたことを思い出しました。そして、大したアドバイスはできませんでしたが、「大丈夫よ、若いんだから。色々なことに興味を持って、一歩ずつ進んでいけば、きっと道は開けるわ」と、自分の経験から感じたことをそのまま伝えました。Aさんは静かに頷いて、少し安心したような顔を見せてくれました。
私の方からも、「もう歳だから、新しいことを始めるのは億劫で」と最近感じていることを話してみました。するとAさんは、「そんなことないですよ!いつも新しいことを学ぼうとしている〇〇さんの姿勢、私、尊敬してます。年齢は関係ないと思います」と言ってくれたのです。その言葉が、私の心に温かく響きました。
季節を共に感じること、それは年齢を超えた絆
桜の下で過ごした数時間で、Aさんとの心の距離がぐっと縮まったように感じました。お互いの「昔」と「今」、そして「これから」について語り合うことで、年齢や世代の違いを超えて、人として分かり合える部分がたくさんあるのだと改めて気づかされました。
かつては「若い人との共通の話題なんてあるかしら」「気を遣わせてしまうのではないか」という不安がありました。しかし、こうして季節の移り変わりを一緒に感じたり、手作りのお弁当を分け合ったりするようなささやかな体験が、自然な形で会話を生み、お互いを理解するきっかけになることを知りました。
子供が独立して時間ができた今、新しい人間関係を求めているけれど、どうすれば良いか分からないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。私自身もそうでした。でも、特別なことではなくても、身近にある季節の行事や日常の出来事をきっかけに、年齢を気にせずに心を通わせられる友人ができる可能性があるのだと感じています。
このお花見体験は、私にとって、年齢を重ねても新しい発見や喜びがあること、そして何歳になっても誰かと共に季節を感じ、語り合えることの豊かさを教えてくれた大切な思い出となりました。もし、あなたの周りにも年の差の友人がいたら、ぜひ一緒に季節を感じる何かをしてみることをおすすめします。きっと、心温まる素晴らしい時間が待っていることでしょう。