年の差フレンドのホンネ体験談

料理から始まった年の差友情 私が教えた「あの味」

Tags: 年の差友情, 料理, 体験談, 世代間交流, 家庭の味

料理から始まった年の差友情 私が教えた「あの味」

年齢を重ねるにつれて、新しい方と出会う機会が減り、人間関係がどこか停滞しているように感じられる方もいらっしゃるかもしれません。私自身も、子供たちが独立し、時間が増えた一方で、少し寂しさを感じていた時期がありました。そんな時、思いがけない形で始まったのが、若い世代の方との温かい交流です。

今回は、私が若い友人に料理を教えるという、ささやかな出来事から始まった年の差の友情について、お話ししたいと思います。特別なことではなく、日々の暮らしの中にある小さなきっかけが、どれほど私たちの心を満たしてくれるのかをお伝えできれば幸いです。

地域活動で見つけた、食への探求心を持つ若い彼女

私たちの出会いは、地域の公民館で行われている食に関するワークショップでした。私は昔から料理が好きで、特に旬の食材を使った家庭料理を作るのが得意でしたので、軽い気持ちで参加したのです。

そこに、一際若い方がいらっしゃいました。まだ20代後半くらいでしょうか。聞けば、都会から移り住んでこられ、地域の暮らしや食文化に興味があるとのことでした。彼女の名前を仮に「陽子さん」としましょう。

ワークショップで何度か顔を合わせるうちに、陽子さんが日本の伝統的な家庭料理について、熱心に質問してくるようになりました。市販の調味料に頼らず、昔ながらの方法で出汁を取ったり、素材の味を活かしたりする調理法に、とても関心を持たれている様子でした。

「あの味」を教えてほしいと頼まれて

ある日、陽子さんから思い切ったお願いをされました。「〇〇さん(私の名前)、もしよろしければ、昔ながらの肉じゃがの作り方を教えていただけないでしょうか。母から教わった味とは少し違って、何だか深みがあるんです。あの味を自分でも作れるようになりたいんです」と、少し照れたように話してくれたのです。

陽子さんが話していた「あの味」というのは、ワークショップの持ち寄りランチの時に私が作った肉じゃがのことでした。何十年と作り続けている、我が家にとっては当たり前の味です。それを若い方に「教えてほしい」と言われるなんて、全く想像もしていませんでした。

最初は少し戸惑いもありました。若い方に私の拙い料理を教えるなんて、おこがましいのではないか、難しくて退屈に思われるのではないか、といった心配が頭をよぎったのです。しかし、陽子さんの真剣な眼差しと、料理への純粋な探求心に触れて、「私にできることなら」とお引き受けすることにしました。

キッチンでの温かい時間

それから数日後、陽子さんが我が家に来てくれました。二人でキッチンに立つのは、なんだかくすぐったいような、新鮮な気持ちでした。

まずは、一緒に近くの八百屋さんへ。陽子さんは、一つ一つの野菜を手に取り、形や色をじっくり見ていました。「スーパーで買うのと違って、どれも生き生きしていますね」と嬉しそうに話します。昔ながらの八百屋さんに行くのが初めてだったようで、店主さんとのやり取りも珍しそうに見ていました。

家に戻って、いよいよ調理開始です。野菜の切り方一つにしても、私にとっては当たり前の「面取り」や「隠し包丁」といった工程が、陽子さんにとっては初めての経験でした。「わあ、こうすると煮崩れしないんですね」「味が染み込みやすそうです」と、一つ一つに感心し、丁寧に私の手元を見てくれます。

出汁の取り方も、顆粒だしに慣れている陽子さんには新鮮だったようです。昆布と鰹節からじっくりと煮出す香りを吸い込み、「あぁ、これが『あの味』の元なんですね」と納得していました。

調味料の加減も、計量カップではなく「このくらい」と目分量で加える私を見て、「すごいですね、感覚ですか?」と驚いていましたが、「何十年も作っていると、自然と手が覚えるのよ」と笑って答えました。失敗談や、家族にまつわる料理の思い出話なども交えながら、和やかに時間は過ぎていきました。

「おばあちゃんの味みたい」その一言に胸がいっぱいに

約一時間後、肉じゃがが完成しました。湯気とともに立ち上る、慣れ親しんだ甘じょっぱい香り。陽子さんは「うわぁ、美味しそう!」と目を輝かせてくれました。

二人で食卓につき、出来立ての肉じゃがを一口。「……美味しい。本当に『あの味』です!」と、陽子さんは満面の笑みを浮かべました。そして、じっと味わうように何度か頷いた後、「なんだか、おばあちゃんの味みたいです」と、ぽつりと言ったのです。

その言葉を聞いたとき、私の胸には温かいものがこみ上げてきました。私の「当たり前」の家庭料理が、若い世代の彼女にとって、どこか懐かしく、心に染みる「おばあちゃんの味」と感じられた。それは、何十年と料理と向き合ってきた自分自身の経験が、確かに誰かの心に響く価値を持っていることを教えてくれる瞬間でした。

料理だけではない、温かい交流へ

この日を境に、陽子さんとの距離はぐっと縮まりました。彼女はその後も、きんぴらごぼうやおはぎなど、いくつかの「あの味」を習いに来てくれるようになりました。一緒に料理をする時間は、お互いのことを話し合う大切な機会となりました。陽子さんの仕事の話、友人関係の話、将来の夢。私の若い頃の話、子育ての経験、日々の小さな出来事。年齢は離れていても、人生の悩みや喜び、興味を持つことは意外と共通しているのだと感じました。

陽子さんも、私の体調を気遣ってくれたり、スマホの使い方で困っているとサッと教えてくれたり、温かい心遣いをしてくれます。料理を教えるという、私が「与える」ことから始まった関係ですが、いつの間にかお互いに支え合い、学び合う「友人」へと変わっていきました。

自分にもできることがある

この経験から、改めて感じたことがあります。それは、年齢を重ねた私たちにも、若い世代の方々に提供できるものがたくさんあるということです。特別なスキルでなくても、長年の経験から培われた知恵や、当たり前だと思ってきた日常の営みが、若い方にとっては新鮮で価値のあるものになり得ます。

そして、新しい関係に踏み出すことへのためらいや、「何を話せば良いのだろう」という不安は、共通の「何か」に取り組むことで自然と解消されることがあるということです。私の場合は料理でしたが、それは趣味でも、ボランティア活動でも、地域の集まりでも良いのです。一緒に何かをする過程で、無理なく会話が生まれ、お互いの人柄を知ることができるのです。

もし、あなたが新しい交流を求めているけれど、若い世代の方との関わりに少し難しさを感じていらっしゃるなら、まずは自分が「これは好きだな」「これは得意だな」と思うことを、誰かに話してみることから始めてはいかがでしょうか。あるいは、地域の活動などに顔を出してみるのも良いかもしれません。

あなたが持っている経験や知識、そして何より温かい心が、きっと誰かの心に響き、素敵な年の差の友情へと繋がっていくはずです。私の「あの味」がそうであったように、あなたの「何か」も、きっと誰かの心に残る温かい記憶となるでしょう。

年齢を気にせず、自分から一歩踏み出すことで広がる豊かな人間関係が、あなたの暮らしをより一層輝かせてくれることを願っています。